大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)104号 判決 1978年10月11日
原告
日本絨氈株式会社
訴訟代理人
野間督司
被告
堺市長
我堂武夫
訴訟代理人
藤田勝治
主文
被告が昭和五二年五月二七日付で原告に対し、原告の昭和五〇年一二月一日から昭和五一年一一月三〇日までの事業年度の事業に係る事業所税についてした更正処分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実《省略》
理由
一当事者間に争いがない事実
請求原因(一)ないし(三)の各事実は当事者間に争いがない。
二旧地方税法七〇一条の三四第三項二二号の解釈について
(一) 旧地方税法七〇一条の三四第三項二二号は、
(1) 中小企業振興事業団法二〇条一項二号イ又はロの中小企業構造の高度化に寄与する事業で政令で定めるものを行う者が、
(2) 高度化資金の貸付け等を受けて当該事業を実施する場合における、
(3) 当該事業の用に供する施設で政令で定めるもの
につき、当該施設に係る事業所床面積及び従業者給与総額に対しては事業に係る事業所税を非課税とする旨規定している。
ところで、本件の場合、原告会社が(1)の要件に、また本件建物が右(3)の要件に各該当することは、被告が明らかに争わない。
そこで、本件の争点は、右(2)の要件に該当するかどうかという問題に帰着する。以下、この争点について検討する。
(二) 本件のように高度化資金の貸付けを受けて土地を取得し、その地上に自己資金で事業用家屋を建築し、そこで、政令に定める事業を実施する場合(以下本件の場合という)には、右(2)の要件、つまり高度化資金の貸付けを受けて事業を実施する場合に該当すると解するのが相当である。そのわけは次のとおりである。
(1) まず、右規定は、「高度化資金の貸付けを受けて事業を実施する」といつているだけで、高度化資金を何に使うか、また、どのような目的でその資金の貸付けを受けるかは限定されていない。そうはいつても、中小企業振興事業法二〇条二項イ、ロの規定から、高度化資金は「土地、建物その他の施設を取得し、造成し、及び設置する」ことのためにしか貸し付けられないから、使途はおのずから限定されることになる。しかし、本件のように、建物つまり事業所用家屋の敷地を取得するため高度化資金の貸付けを受けることが、右規定の「高度化資金の貸付けを受け」との文言に含まれないと解することは、少なくとも、この非限定的文言からは出てこない。却つて、高度化資金の貸付けを受けて土地を取得し、その上に建物を建ててそれを倉庫等として政令で定める事業に利用している場合は、その敷地も同時にその事業の用に供されているわけであるから、貸付けと事業の実施との間に関連があり、「貸付けを受けて事業を実施する」との文言に含まれるとした方が自然である。
(2) さらに、実質面から考えると、旧地方税法七〇一条の三四第三項二二号の立法趣旨は、中小企業振興事業団が「中小企業の経済的社会的存立基盤の変化に対処し、中小企業構造の高度化を促進するために必要な指導、資金の貸付け等の事業を総合的に実施するとともに、中小企業の経営管理の合理化及び技術の向上を図るために必要な研修、指導等の事業をあわせて行なうことにより、中小企業の振興に寄与することを目的とする」(中小企業振興事業団法一条)法人であることから、その業務の一環として行われる高度化資金の貸付けを受けて行われる倉庫等の集団化等の事業が、中小企業構造の高度化という公益に合致するという点にあると解せられる。そうして、これらの事業のためには建物だけでなく、そのための敷地が必要であることはいうまでもないから、高度化資金を借りた者が、それを事業用家屋の敷地の取得のために使う場合でも、倉庫等の集団化等の目的を達することができるとしなければならない。したがつて、本件の場合にも事業所税を非課税とする実質的、合理的な理由を見出すことができる。もつとも、立法政策上高度化資金を事業用家屋の建築のために使う場合にだけ非課税とすることも考えられるが、少なくとも旧地方税法七〇一条の三四第三項二二号にはそのような限定がないことは前述したとおりである。
(3) なお、<証拠>によると、仙台市、神戸市、千葉市では、被告と同様、本件の場合に事業所税を賦課する取扱いをしていることが認められ、この認定に反する証拠はない。
しかし、これらの市が非課税の扱いをしているからといつて、当裁判所のこの点に関する上記の解釈の正当性が奪われる理はない。
三以上の理由によつて、本件建物は旧地方税法七〇一条の三四第三項二二号に該当するから、これと異なる見解のもとにされた被告の本件更正処分には右規定の解釈を誤つた違法があり、取消しを免れない。<以下、省略>
(古崎慶長 井関正裕 西尾進)